その果てを知らず

小説

本書は一昨年亡くなった著者の遺作。監理人がSFを夢中で読んでいたのは中学生から大学生にかけてだった。所謂日本のSF第一世代の作家が中心だったが、著者だけは読んでいなかった。『なぞの転校生』や『ねらわれた学園』のイメージが強すぎて読むのを避けてきた。そのため著者の著作を読むのは本書が初めて。SF作家なのに原稿は鉛筆手書き、PCやスマホも使わずネットとは無縁の生活というのは意外だった。SF作家は新しもの好きと勝手に思っていた。

幻想的な話から始まり、全篇このような物語かと思ったが、途中著者の回想的な話がはじまりどうなるのだろうかと思った。名前は変えているが、初期の『SFマガジン』や『宇宙塵』を知っているひとには直ぐ分かる作家や編集者が登場する。その人たちが不思議なことを話しだす。主人公の娘も瞬間移動の話をして、実際に瞬間移動を行う。著者と思われる主人公も瞬間移動ができるようになる。著者の幻覚や幻聴、作中小説が入り乱れなんとも不思議な物語になっている。

死を前にして、著者が見据えていたのは、人間が死んだ後の生命の持続性だったように思う。それは「あの世」とか「輪廻」といった宗教的なことではなく、別の宇宙、別次元での生まれ変わりというようなことで理解するのが難しい。それにしても著者がこのような作風とは知らなかった。別の作品も読んでみようと思った。

 そのどれもこれもが、私たちを受け入れるところだとすると、少し異様におなりになるのでは、ありませんか?私たちが存在するのが、今のこの世界だけではなく、そのぶんだけ無数にあるのか、本当はもっと少なくてたった一つか二つかわからないにしても、今人間が生きているつもりの今の世界一つよりは多いようですよ。
 そのどこかに行くのですよ。
 体を作っていたものは処分されて消え、姿も形もなくなっても、そいつはどこかが引き受けるのではないか。いや、誰もかれも受け入れてもらえるのではなく、制限されるのかもしれないけれども、そのあたりはこっちにはわかりません。ただ言えるのは、当人の実体がなくなり、意識もなくなり、存在しなくなったとしても、生命はどこの世界でつづくのです。本人が知らなくてもつづくのです。私、思うんですが、そのつもりで死んだら、何か残るんですよ。本人が知覚しているかどうかは不明ですが。

著者 : 眉村卓
出版社 : 講談社
発売日 : 2020/10/22
単行本 : 258頁
定価 : 本体1500円+税

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