蔓延する東京

本の話

武田麟太郎の作品を初めて読んだ。武田麟太郎の作品を読もうとしても新刊本では難しい。アマゾンの電子書籍では無料で読める作品がある。本書には小説・エッセイ・ルポルタージュが収録されている。収録されている作品は1930年代の東京下町に住む主に最下層の人びとが描かれている。各作品については、巻末に「作品解説にかえて」があり大変参考になる。

武田麟太郎は大学に入学した後、あまり授業には出席せず中退してしまう。武田は労働運動に参加し、「帝大セツルメント」でも働いた(『私の「大学生」』)。武田は1936年3月に『人民文庫』を創刊する。しかしながら、『世界文化』が廃刊になり、京都人民戦線事件では寄稿者が相次いで逮捕された。発禁が続き、勉強会をしていたグループ16名が検挙されたことが契機となり1938年1月号で『人民文庫』が廃刊になる。その後、武田麟太郎は転向する。

管理人にとって一番面白く読めたのはルポルタージュの『蔓延する東京』だった。雑誌『犯罪科学』の企画で、拡大していく東京の周辺地域を写真と文章でルポする。六郷橋付近、羽田海岸、洗足池、武蔵小山など今とは全く違う姿が映し出されている。写真の記録性ということがよくわかる。それが写真の一番の良さというか魅力だと管理人は思っている。

引用は「作品解説にかえて」の『大凶の籤』の項から。

 しかし一九三〇年代の、やがて戦争へと突入してゆく不穏な東京の空気をこれほどまでに巧みに小説として描き出した武田麟太郎の仕事が、「明治」期以後の一連の「底辺下層文学」の系譜に歴史的に位置づけられることは、作者自身によってはむろん、後世からもなされることはなかった。それが結果的に、現在にいたるまでの長いあいだ、武田麟太郎といえば「大阪の作家」云々と、かれをご当地作家、庶民派作家の枠に封じ込めてきたのではないか。
 だが、たとえこれまでがどうであれ、この「大凶の籤」をはじめとする本書に収録した数々の作品には、底辺から社会を見ることによって、われわれが一般に抱いている既成の秩序や道徳、価値観を転倒させ、反転させようとするなにかが確実に胚胎している。それは「ああ、戦争へ行きたい」というこの知識人の感想にどう応えるかもふくめて、である。

著者 : 武田麟太郎
出版社 : 共和国
発売日 : 2021/01/20
単行本 : 400頁
定価 : 本体3500円+税

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