物語昭和写真史

本の話

本書は著者が昭和の写真史を回想する文章が収められており、内容が重複する部分が多々ある。著者がすでに他界しており、内容を確認して書き直すということも出来ないのでいたしかたない。本書を読んでいて、「昭和は遠くになりにけり」という隔世の感を覚える。

各々の文章の初出が昭和の終わり頃で、スマホもSNSも無く、デジカメも一般的ではなかった。言ってみれば写真の幸福な時代で、「アサヒカメラ」も「日本カメラ」もそれなりの部数が発行されていた。本書で頻繁に言及されている「アサヒカメラ」は休刊し、「日本カメラ」「月刊カメラマン」「フォトテクニック」などもすでに休刊に追い込まれている。雑誌の月例に入選してプロの道を目指すということも難しくなっている。

ピクトリアリズムやリアリズム論争などは、フォトショップで何でもありの現代写真では「どうでも良いこと」になってしまったように感じる。写真家でも「PROVOKE」を知っているのは少数派で、安井仲治や中山岩太も知らないひとのほうが多いだろう。まあ「写真史」を知らなくても写真は撮れる。管理人のようなデジタルより銀塩写真のほうが長かった人間には、本書は面白かったし写真を撮るうえで参考になることがあった。

写真が明らかに変わったのは、デジタルカメラよりフォトショップと関連するソフトの普及のほうが大きいように管理人は思う。デジカメが出始めた頃、いかに銀塩写真のようにプリントするかに腐心していたが、最近はデジタルはデジタルとして扱う。写真という言葉の意味することが変化してしまった。

 私にとっての写真とは、ごく個人的な秘めごとに等しいささやかな自己表出の場にすぎなかったと思うが、写真表現の流れに沿って、昭和初めのピクトリアリズムから新興写真流入の飛沫を浴び、戦争中の空白期を経て、戦争写真におけるリアリズムを受けとめながら、経済復興以降の時代ではイメージとしての写真のありように抜本的な検討を迫られたのであった。一九六〇年代の学園紛争やら、ベトナム戦争のあった時期から、写真表現に対する姿勢は、私の中で大きく変容した。ジョン・シャーカフスキーはどこかで「写真と現実の曖昧でしかもわかりきった関係の存在を、これほど明確に認識している時代はこれまでになかった」と七〇年代に述べているが、もともとどこかで醒めている私にとって、こうした発言は切実に心に響くものがあった。昭和五十三年から三回、私はヨーロッパへ出掛け斜陽といわれる国ぐにの蓄積された文化の厚みにショックを受けた。生き急ぎすぎたという反省をしいられたのである。

著者 : 桑原甲子雄
出版社 : 月曜社
発売日 : 2020/12/15
単行本 : 384頁
定価 : 本体2400円+税

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